① 戦争の前ぶれ
やっぱり人々の話は,みんな戦争の話でした。うちには,おやじが,要するに父が飛行場に勤めておったんですね。飛行場に勤めておったんで,よくそこから将校さんが,兵隊の悪い,悪いじゃない,身分の高い人が来て,うちの父と酒を飲んでおったんです。お酒を飲んでいるんだが,そこでも,みんな戦争の話でした。
例えば,「サイパンとかテニアンが,もう占領されて玉砕しましたよ。だから,次は沖縄ですよ」という話を将校さんがしていました。
そして,「ああ,そうですか。これは大変なことですね」と言って話をしているんですが,そこのなかで,「仲本さん,今度の戦争は負けですよ」と言っていました。将校さんが。私たちは隣の部屋で寝ているんですが,これがはっきり聞こえたんですね。「仲本さん,今度の戦争は負けですよ」と。
ところが,私は負けるということは,実感はないんですけれども,二人,それで少ししばらく黙っていました。「ええっ,戦争で負けるってどんなことなんだろう」と。でも,私たちはまだ戦争は勝つんだという話ですから,勝つんだと思って,負けるということはどういうことか,全くわかりませんでした。